「できます」は弱い、「やっています」が強い|AI時代の事業表現の作り方
結論:「できる」と「やっている」は別物
Web制作会社の初回商談やサービスページで、よく聞く言葉があります。「デザインのクオリティが高いです」「アクセシビリティ対応できます」「WordPressが得意です」。どれも嘘ではありません。多くの制作会社で対応可能な範囲です。ただし、嘘ではないと同時に、本当かどうかも検証できないという共通点があります。
本記事の結論は1つです。AI時代に強いのは「できます」ではなく「やっています」の事実です。「できる」は誰でも好き勝手言える。「やっている」は事業実体として証拠が残る。この差が、E-E-A-T評価でもAI検索の引用でも、決定的な違いを生むと考えられます。
- 「できます」は嘘ではないが検証もできない。誰でも言える表現
- 「やっています」はサービス化・専用サイト・継続発信・規格準拠など、事実が物理実在として残る
- AIは「他人が検証できる情報」を引用する性質があり、「やっています」の証拠が citation 価値を持つ
E-E-A-Tの4要素(経験・専門性・権威性・信頼性)を細かく理解するより、自社のコンテンツが「できる」止まりなのか「やっている」レベルなのか、その1点を確認するほうが実装上は効果的だと考えられます。
なぜ「できます」が弱いのか
嘘ではないけど検証もできない
「アクセシビリティ対応できます」と書くこと自体は事実かもしれません。やろうと思えばできる範囲です。問題は、その「できる」を読者・検索エンジン・AIが検証する手段がないことです。実績ページに該当案件がない、専用のチェックフローも公開されていない、過去にやった証拠も提示されていない。すべて自己申告のままです。
この性質は、よくある営業トークすべてに共通します。
| よく聞く営業トーク | なぜ検証できないか |
|---|---|
| デザインのクオリティが高い | 「高い」の基準が主観 |
| 大手より小回りが利く | 比較対象と基準が不明 |
| 臨機応変に対応する | 主観、計測手段なし |
| アクセシビリティ対応できる | 「できる」の範囲・実績が不明 |
| WordPressが得意 | 「得意」の基準が不明 |
「できる」を裏付ける証拠が示されていない限り、読者にとっては「言ってるだけ」と区別がつきません。
誰でも言える=AIも同じ表現を量産
AIは大量のテキストデータを学習して平均的な出力を返します。「アクセシビリティ対応できます」「WordPressが得意です」のような表現は、Web上に無数に存在するため、AIも当然同じ表現を生成します。
つまり「できます」型の表現は、すでにAIによって大量供給されている言葉です。同じ表現を自社サイトに置いても、AI検索の引用先として選ばれる余地が小さくなります。AIは自分が生成可能な情報を引用する必要がないからです。
読者は同じ表現に慣れて素通りする
実務面でも「できます」型の表現は問題があります。Web制作会社を探している企業の担当者は、すでに複数のサイトを比較検討しているケースが大半です。どのサイトでも「クオリティが高い」「小回りが利く」「アクセシビリティ対応できる」と書いてあれば、目で素通りします。差別化要素として機能しません。
「できます」が並ぶサイトと「やっています」の証拠が並ぶサイトでは、読み込み深度と問い合わせ確度に明確な差が生まれる可能性があります。
「やっています」を成立させる4つの証拠
「できる」を「やっている」に格上げするには、事業実体として証拠を残す必要があります。代表的な証拠は4つに分類できます。
証拠1:サービス化(メニュー化・価格設定)
得意領域を明確なサービスとして商品化し、価格を設定して公開する方法です。「対応できます」と書くのではなく、サービス名・サービス内容・価格・申込フローを公開することで、事業として責任を持つ意思表示になります。
価格が公開されていることが特に重要です。価格は既存顧客との整合性が必要なため、書き手の自由度が低くなります。「アクセシビリティ評価 22万円から」と公開すれば、既存顧客が実際にその価格で契約していることを意味します。検証可能性が一気に上がります。
証拠2:専用サイト・専用ブランド
サービス化の最も強い形が、独立した専用サイトの構築です。専用ドメインまたは専用ディレクトリ、専用ロゴ、専用デザイン、専用ナビゲーション。これらがそろうと、「片手間でやっている」のではなく「事業として独立運営している」という事実が物理実在として確立します。
中小企業がここまで投資する例は多くありません。だからこそ、専用サイトを持っている事実だけで強い証拠になります。
証拠3:継続発信(ブログ・実績・SNS)
サービスを立ち上げたが半年で更新が止まっている、ブログ記事が1本しかない、実績ページが空っぽ、というケースは「やっている」とは言えません。継続発信の量と頻度が、事業継続の証拠になります。
- ブログ記事の継続更新(月1本でも継続していれば証拠になる)
- 実績の継続追加(年単位で件数が増えているか)
- SNSアカウントでの定期発信
- セミナー・ウェビナー開催の継続
更新が止まっているサイトは、検索エンジンとAIから「過去の取り組み」と判定される可能性があります。継続発信の有無で、現在進行形の「やっている」が裏付けられます。
証拠4:業界規格・ガイドラインへの準拠
業界の公的な規格やガイドラインを参照基準として明示することで、自社の取り組みが第三者基準で評価可能になります。「独自基準で対応」ではなく「公的規格に準拠して対応」と明示することで、検証可能性が大きく上がります。
参照可能な公的規格の例:
- アクセシビリティ:JIS X 8341-3:2016(WCAG 2.0準拠)、WAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会)の日本語訳
- 個人情報保護:JIS Q 15001(プライバシーマーク基準)
- 情報セキュリティ:ISO/IEC 27001
- 品質管理:ISO 9001
- 業界別ガイドライン(経産省・総務省・厚労省などが公開する各種指針)
規格名・バージョン・準拠範囲を明示することで、「やっているかどうか」が外部から判定可能になります。
業界別「やっている」化の実例パターン
「やっています」レベルへの格上げは、業界を問わず同じ構造で実装できます。代表的なパターンを整理します。
Web制作:アクセシビリティ・特定CMS・特定業種特化
「アクセシビリティ対応できます」を「アクセシビリティ評価サービスとして提供しています」へ。「WordPressが得意です」を「WordPressサイト運用代行を月額〇万円で提供しています」へ。「採用サイトもやれます」を「採用サイト専門サービスとして実績〇件を公開しています」へ。
どれも独立サービスとしてのページ・価格・実績・FAQが揃った時点で「やっている」レベルに到達します。
製造業:特定技術領域の独立化
「精密加工が得意です」を「精密加工の中でも〇〇分野に特化、月産〇個の実績、対応公差〇μm」へ。「短納期対応できます」を「3日納品サービスとして料金体系を公開、実績〇件」へ。
技術領域の独立化と数値による裏付けが、「できる」と「やっている」の差を作ります。
士業(弁護士・税理士・社労士など):得意分野の独立化
「企業法務対応できます」を「契約書レビューサービスとして月額顧問契約を提供しています」へ。「相続もやります」を「相続専門サイトを別途運営、年間〇件対応」へ。
得意分野ごとの専用サイト構築は、士業で比較的進んでいる「やっている」化の好例です。
コンサル:体系化されたメソッド
「経営改善できます」を「〇〇メソッドとして体系化、書籍化・セミナー開催・認定資格制度を運営」へ。「Webマーケティング得意です」を「自社チェックリスト100項目を無償公開、月次レポートサービスを月額〇円で提供」へ。
体系化と無償コンテンツ公開が、コンサル業界での「やっている」証拠として機能します。
ENVY DESIGNの実装例:AccessBridge
ENVY DESIGNでは、ウェブアクセシビリティ対応について AccessBridge というサービスを2024年に立ち上げました。「アクセシビリティ対応できます」と書く代わりに、以下を実装しています。
| 証拠 | 実装内容 |
|---|---|
| サービス化 | 評価サービス22万円〜、改修サービスは個別見積もり |
| 専用サイト | 独立ディレクトリ、専用ロゴ、専用デザイン、専用ナビゲーション |
| 専用ブログ | アクセシビリティ専門ブログを別途運営、WCAG各達成基準の解説記事を継続更新 |
| 規格準拠 | JIS X 8341-3:2016(WCAG 2.0を引き継ぐ規格)に準拠したチェックフロー |
これは「アクセシビリティ対応できます」と書くより、はるかに多くの労力がかかります。専用サイトの構築費用、専用ブログの執筆コスト、評価フローの整備、価格設定の責任。簡単ではありません。
しかし、結果として「やっている」事実が物理実在として残ります。誰でもAccessBridgeのサイトを訪れて、サービス内容・価格・ブログ更新頻度を確認できます。書き手の自由度はゼロに近く、サービスを止めれば消える代わりに、続けている限り強力な信頼の証拠として機能します。
「やっている」レベルの判定チェックリスト
自社の取り組みが「できる」止まりなのか「やっている」レベルに到達しているか、10項目で判定できます。
| # | チェック項目 |
|---|---|
| 1 | 該当領域に独立したサービスページがあるか |
| 2 | 価格または料金体系が公開されているか |
| 3 | 実績件数が明示されているか(または継続的に追加されているか) |
| 4 | 該当領域のブログ記事が継続的に更新されているか |
| 5 | 業界規格・公的ガイドラインへの準拠を明示しているか |
| 6 | 担当チーム・担当者が顔出し・実名で示されているか |
| 7 | 申込フロー・問い合わせフォームが整備されているか |
| 8 | FAQが整備されているか(10問以上が目安) |
| 9 | 過去1年以内に該当領域で新規実績が追加されているか |
| 10 | 専用サイトまたは専用ディレクトリで独立運営されているか |
「はい」が7項目以上で「やっている」レベル、4〜6項目で「やっている途中」、3項目以下で「できる止まり」と判定する目安にしてみてください。
中小企業が今日から始められる段階的アプローチ
「専用サイトを構築しろ」と言われても、初期投資の問題で踏み出せないケースもあると思います。「やっている」レベルへの格上げは段階的に進めることが現実的です。
ステップ1:メニュー化と価格設定(1〜2週間)
得意領域を独立サービスとして切り出し、サービス名・サービス内容・価格・申込フローを既存サイト内のサブページとして整備します。専用サイト構築は不要、既存サイトの追加ページで十分です。
ステップ2:実績ページの整備(1ヶ月)
該当領域の実績を切り出して、業種・規模・課題・成果物・期間込みでカード形式で整理します。公開URLが付けられる案件は必ず添付します。NDA案件は概要だけでも明記します。
ステップ3:継続発信の体制構築(3ヶ月)
該当領域専用のブログカテゴリを作成し、月1本のペースで記事を公開する体制を作ります。書き手の負担を考えると、現場担当者へのインタビュー形式で記事化するのが現実的です。
ステップ4:規格準拠の明示(適宜)
該当領域に関連する公的規格・業界ガイドラインを調査し、自社の対応範囲を「規格名 + 準拠範囲」の形で明示します。完全準拠が難しい場合でも、参照基準として明示すること自体が「やっている」証拠になります。
ステップ5:専用サイト化(中期施策、6ヶ月〜1年)
ステップ1〜4で実体が積み上がってきたら、専用サイト化を検討します。専用サイトは「やっている」証拠として最強ですが、実体がない状態で先にサイトだけ作ってもE-E-A-T評価には繋がりません。実体を積んでからサイト化する順番が重要です。
自社の「やっている」化を相談する
「できる」と「やっている」の差をどう作っていくか、自社の状況に合わせて段階的に進めたい方は、ENVY DESIGNにご相談ください。AIO・GEO対策(AI検索最適化)では、本記事の考え方をベースに、自社サイトのコンテンツ診断と改善計画の策定を承っています。AI流入の実観測データについては120時間のAIO対策で4位→半年放置で圏外|SEOとAI流入の連動を13ヶ月実測もあわせて参考にしてみてください。
本記事で参照した一次情報
| 出典 | 用途 |
|---|---|
| Google検索セントラル「E-A-TにEが加わりました」(2022年12月) | E-E-A-T定義の出典 |
| Google検索セントラル「役立つコンテンツの作成」 | コンテンツ品質基準 |
| JIS X 8341-3:2016(WAIC日本語訳) | アクセシビリティ規格 |
| 120時間のAIO対策で4位→半年放置で圏外|SEOとAI流入の連動を13ヶ月実測 | ENVY DESIGN自社の実測データ |
よくある質問(FAQ)
Q. 「できます」と「やっています」の差はどこで判定できますか?
A. 本記事の判定チェックリスト10項目で判定できます。「はい」が7項目以上で「やっている」レベル、4〜6項目で「やっている途中」、3項目以下で「できる止まり」が目安です。サービス化・価格公開・継続発信・規格準拠の有無が特に重要な判定軸になります。
Q. 専用サイトまで作らないと「やっている」レベルにならないですか?
A. 専用サイトは「やっている」証拠の最も強い形ですが、必須ではありません。既存サイト内のサブページとしてサービス化・価格設定・実績整理・継続発信を進めるだけでも、「できる止まり」からは大きく前進できます。専用サイト化は実体が積み上がってからの中期施策と位置づけるのがおすすめです。
Q. 「やっています」を増やすほどAIに引用されますか?
A. ENVY DESIGNの観測では、検証可能なコンテンツがAI検索に引用される傾向があると考えられます。「やっています」の証拠は検証可能性が高いコンテンツの代表例なので、AI引用の獲得につながる可能性は高いと推測されます。詳細はSEOとAI流入の連動を13ヶ月実測もご参照ください。
Q. 業界規格やガイドラインがない領域の場合はどうすればよいですか?
A. 公的規格がない領域でも、業界団体のガイドライン、業界誌の調査レポート、大学・研究機関の研究成果などを参照基準として活用できます。完全準拠が難しくても「参照している」と明示するだけで、検証可能性が一段上がります。
Q. 価格を公開することに抵抗があります。本当に必要ですか?
A. 価格公開は「やっている」証拠として強力ですが、業界によっては難しい場合もあります。完全な料金表が難しい場合でも、「初期費用の目安」「料金が変動する条件」「過去案件の料金レンジ」といった部分公開でも検証可能性は上がります。「全件個別見積もり」のみで価格情報がゼロの状態は、「できる止まり」の典型例だと考えられます。
Q. 「やっています」化は中小企業でも実現可能ですか?
A. 中小企業のほうがむしろ実装しやすい側面があります。大企業は組織が大きく、得意領域の独立化に意思決定コストがかかります。中小企業は経営判断のスピードが速く、得意領域1つに集中投資する戦略が取りやすい。本記事の段階的アプローチに沿って、6ヶ月〜1年計画で実装することをおすすめします。
Q. 「できます」表現を全部削除する必要はありますか?
A. すべて削除する必要はありません。「できる範囲」を網羅的に示すことには一定の意味があります。ただし、自社の中核サービスや差別化したい領域については「できます」止まりでは弱いため、「やっています」レベルへの格上げを優先することをおすすめします。中核領域に「やっています」、周辺領域に「できます」という使い分けが現実的です。
出典
- Schema.org(構造化データの公式仕様)
- Google Search Central(検索・構造化データの公式情報)
- Web Vitals(Core Web Vitalsの公式定義)
- Google検索公式ブログ(AI Overview等の発表情報)